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梅(うめ)
, 梅花歌卅二首[并序]
天平二年正月十三日 帥の老の宅に萃まりて、宴會を申ぶ。時に初春の令月にして、気淑く風和らぐ。梅は鏡前の粉を披き、蘭は珮後の香を薫ゆらす。加以みならず、曙の嶺に雲移り、松は羅を掛けて盖を傾く。夕の岫に霧結び、鳥はうすものに封じらえて林に迷ふ。庭に新蝶舞ひ、空に故鴈帰る。是に天を盖にして地を坐にし、膝を促づけ、觴を飛ばす。言を一室の裏に忘れ、衿を煙霞の外に開く。淡然として自ら放し、快然として自ら足る。若し、翰苑に非ずは、何を以てか情をのべむ。詩に落梅の篇を紀す。古今、夫れ、何ぞ異ならむ。宜しく園梅を賦して聊か短詠を成さむ。
★わが苑に 梅の花散る 久方の 天より雪の 流れくるかも
[主人] (5−822)
大宰帥大伴卿梅歌一首
吾が岳に 盛りに開ける 梅の花 遺れる雪を まがへつるかも
(6−1640)
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