いぬ枇杷(ちちの実)

父の枕詞として、ちちの実が用いられているが、
このいぬ枇杷はイチジクと同じように、実をもぎ取
ると乳白色のねばい液を出すので、乳の実と呼ば
れたようである。

沙弥島にて

  勇士(ますらを)の名を振はむことを慕(ねが)ふ
  歌一首 短歌を并せたり
ちちの実の 父の命 柞葉(ははそば)の 母の命
おぼろかに 情尽して 思ふらむ その子なれやも
大夫や 空(むな)しくあるべき 梓弓 末振り起し
投矢以ち 千尋射渡し 劒大刀 腰に取り佩き 
あしひきの 八峰(やつを)踏み越え さし任(ま)くる
情障(さや)らず 後の代の 語り繼ぐべく 名を立つ
べしも              (巻十九ー四一六四)
大夫は 名をし立つべし 後の代に 聞き繼ぐ人も
語りつぐがね          (巻十九ー四一六五)
  右の二首は、追ひて山上憶良臣の作れる歌に
  和ふ。