猪目洞窟

宇賀(うか)の郷。郡家(こほりのみやけ)の正北一十七里廾五歩なり。(中略)
 すなはち、北の海濱(うみべた)に礒あり。腦(なづき)の礒と名づく。高さ一丈(つゑ)ばかりなり。上に松生ひ、芸(しげ)りて礒に至る。里人の朝夕(あしたゆふべ)に往來へるが如く、又、木の枝は人の攀(よ)ぢ引けるが如し。礒より西の方に窟戸(いはやど)あり。高さと廣さとおのもおのも六尺(さか)ばかりなり。窟の内に穴(あな)あり。人、入ることを得ず。深き淺きを知らざるなり。夢(いめ)にこの礒の窟(いはや)の辺に至れば必ず死ぬ。かれ、俗人(くにひと)、古より今に至るまで、黄泉(よみ)の坂・黄泉(よみ)の穴と號(なづ)く。