菱(ひし)

 故、大御饗(おほみあへ)を献りし時、其の女矢河枝比賣命に、大御酒盞(さかづき)を取らしめて獻りき。
 是に天皇、其の大御酒盞を取らしめ任(なが)ら御歌曰みしたまひしく、
  この蟹や 何処(いづく)の蟹
  百伝(ももづた)ふ 角鹿の蟹
  横去(よこさ)らふ 何処(いづく)に到る
  伊知遲(いちぢ)島 美(み)島に著(と)き
  鳰鳥(みほどり)の 潜(かづ)き息づき
  しなだゆふ 佐佐那美路(ささなみぢ)を
  すくすくと 我(わ)が行(い)ませばや
  木幡の道に 遇(あ)はしし嬢子
  後姿(うしろで)は 小楯(をだて)ろかも
  歯並(はな)みは 椎菱如(な)す
  櫟井(いちひゐ)の 丸迩坂(さ)の土(に)を
  初土(はつに)は 膚(はだ)赤らけみ
  底土(しはに)は 丹黒(にぐろ)き故
  三つ栗(ぐり)の その中つ土(に)を
  かぶつく 眞火(まひ)には当てず
  眉書(まよが)き 濃(こ)に書き垂れ
  遇はしし女人(をみな)
  かもがと  我(わ)が見し子ら
  かくもがと 我(あ)が見し子に
  うたたけだに 対(むか)ひ居(を)るかも
  い添(そ)ひ居(を)るかも
とうたひたまひき。かく御合(みあひ)したまひて、生みませる御子は、宇遲能和紀郎子なり。

菱の実 中国雲南省鄭和公園で