幣羅坂

故、大毘古命、高志の国に罷り往きし時、腰裳(こしも)服(き)たる少女(をとめ)、山代(やましろ)の幣羅坂(へらさか)に立ちて歌曰ひけらく、
   御眞木入日子(みまきいりびこ)はや
   御眞木入日子はや
   己が緒を
   盜み殺(し)せむと 
   後(しり)つ戸よ
   い行き違(たが)ひ 
   前つ戸よ
   い行き違ひ
   窺はく知らにと
   御眞木入日子はや
とうたひき。是に大毘古命、恠しと思ひて馬を返して、其の少女に問ひて曰ひしく、「汝が謂ひし言は何の言ぞ。」といひき。爾に少女答へて曰ひしく、「吾は言(ものい)はず。唯歌を詠みつるにこそ。」といひて、即ち其の所如(ゆくへ)も見えず忽ち失せにき。

奈良坂から北に下る道の途中=木津町市坂