泊瀬川

  或る本、藤原京より寧樂宮に遷る時の歌
天皇の 御命(みこと)かしこみ 柔(にき)びにし 家をおき 隠国(こもりく)の 泊瀬(はつせ)の川に 舟浮けて わが行く河の 川隈(かはくま)の 八十隈おちず よろづたび かへり見しつつ 玉桙の 道行き暮らし あをによし 奈良の 京(みやこ)の佐保川に い行き至りて わが宿(ね)たる 衣の上ゆ 朝月夜 さやかに見れば 栲(たへ)の穗に 夜の霜降り 磐床(いはとこ)と 川の水凝(こ)り 寒き夜を いこふことなく 通ひつつ 作れる家に 千代までに 來(き)ませ大君よ われも通はむ                           (一ー七九)
   反歌
 あをによし 寧樂(なら)の家には 萬代に われも通はむ 忘ると思ふな             (一ー八〇)
   右の歌は、作主未だ詳らかならず。